北岳(2日目)

午前3時に目が覚めたので、テントから首を出して空を見上げるとメガネなしでもいくつか星が見える。これなら山頂から日の出を拝めそうということで、なるべく音を立てないよう気を付けながら準備を進め、次第に周囲が明るくなり始めた4時過ぎにテントを出発。

肩の小屋の周囲には既に大勢の宿泊客がたむろしていたが、山頂へ向かおうとする人は意外に少ないようであり、少し前に歩き出したらしい3人の後を追って昨日と同じルートを進んでいく。空身ということで、ザック姿のその3人をすぐに追い越させていただくと、その先に人の姿は見当たらない。

結局、4時32分に着いた2度目の山頂には誰もおらず、昨日は団体客に占領されたまま近寄ることさえ憚れたベンチも今日は独り占め。しかし、周囲の山の名前を講釈してくれる方もいないので、スマホの地図機能を使って“山座同定”を試みたところ、富士山以外にも間ノ岳仙丈ケ岳甲斐駒ケ岳といった山々を確認することが出来た。

その間、間ノ岳の方向から縦走装備の男性が姿を現し、二人して4時50分からの日の出を眺めていると、間もなく、次々に間ノ岳方面から登山客が到着。その後、肩の小屋の方からもようやく何人か人が上がってくるようになり、次第に賑やかになり始めた頃、一足先に山頂を後にした。

さて、快晴の下、撤収作業も順調に進み、ハイドレーションパックに1リットルとペットボトルに500mlの飲料水を確保して6時6分にテント場を出発する。小太郎尾根分岐(6時26分)までの稜線歩きは、昨日とは段違いの素晴らしさであり、覚えたばかりの仙丈ケ岳甲斐駒ケ岳の姿を眺めながら、のんびり下っていく。

6時35分に白根御池小屋コースと右俣コースの分岐に到着すると、今日はここを右に進み、昨日歩く筈だった右俣コースへ向かう。さすがに傾斜は草スベリより緩やかであり、時折、大樺沢の雪渓の様子も目に入るようになるのだが、歩き易い反面、ついついスピードが上がってしまうのが問題であり、厳しい日差しと相俟って次第に脚力を奪われていく。

二俣(7時22分)の先の短い雪渓歩きも期待したほど涼しくなかったが、ようやく樹林帯の中を歩けるようになって、一安心。しかし、足腰が衰弱していたのは間違いないようであり、2箇所の鉄パイプ橋(7時56分、8時28分)を渡り終わった先で派手な転倒。幸い、口の中を切ったくらいで済んだものの、精神的な動揺は大きく、しばしの間、冷たい沢の水で強打した左頬を冷やし、冷静さを取り戻してから再び歩き出す。

その先にある、昨日のルートミスの起点となった白根御池小屋コースとの合流地点(9時2分)では、確かにここで間違った方向へ進んでしまったことを確認。おそらく“右俣”という言葉が頭にあったため、左折すべきところをつい“右折”してしまったのだと思う。

この先でハイドレーションパックが空っぽになってしまうが、広河原山荘(9時17分)まで我慢して、そこの自動販売機で冷えたコーラを購入。広河原ビジターセンターには9時31分に着いたが、ちょうど良い時刻のバスが無かったため、10時20分発の乗合タクシーをお願いして芦安駐車場まで戻ってきた。

ということで、帰路の転倒事故は一つ間違えば大ケガにつながりかねなかったものであり、重装備での下りには、歩行スピードの抑制が特に重要であることが身に沁みて分かった。まあ、それを除けば、今回の山歩きは十分に満足のいくものであり、遠からぬ将来、白峰三山縦走にも挑戦してみたいと思います。