結婚哲学

1924年作品
監督 エルンスト・ルビッチ 出演 フロレンス・ヴィドア、モンテ・ブルー
(あらすじ)
ジョセフとミッチのストック夫婦は、今まさに倦怠期の真っ只中。そんなところへ、幸せな結婚生活を送っている親友のシャーロッテ(フロレンス・ヴィドア)からの手紙が届き、ミッチは気晴らしを兼ねて一人でこの親友の家を訪れることにする。彼女は、そこでシャーロッテの夫フランツ・ブラウン医師(モンテ・ブルー)を紹介されるが、ハンサムでやさしそうな彼に好意を抱いた彼女は….


エルンスト・ルビッチが、「ウィンダミア夫人の扇(1925年)」の前年に公開したサイレント映画

ブラウンとストックの二組の夫婦、それにフランツの同僚である独身医師グスタフが加わった5人の男女が織り成す恋愛喜劇であり、彼らの恋愛感情を矢印で表すと、ミッチ→フランツ⇔シャーロッテ←グスタフという関係になる。(ジョセフが入っていないのは、彼がこの中の誰にも恋愛感情を抱いていないからである。)

これからも分かるとおり、フランツとシャーロッテはお互いに愛し合ってはいるのだが、色っぽいミッチの誘惑から生じたフランツの一瞬の気の迷いがシャーロッテのヤキモチ心に火をつけ、お人好しのグスタフまで巻き込んだ騒動へと発展する。まあ、正直、どうってことのないお話なのだが、これで96分の上映時間を飽きさせずに持たせてしまうルビッチの演出の妙は、いつものことながらお見事の一言。

前半、シャーロッテが自宅のベランダで花を摘んでいるシーンが出てくるのだが、ルビッチはこの花々の行方を描くことだけで、フランツとシャーロッテ、グスタフの恋愛関係ばかりか、その後の嵐の予感まで表現してしまっており、彼の魅力の一つである小道具の使い方の上手さが、この頃のサイレント映画における演出上の必要性から生まれたものであることが良く分かる。

また、例によって字幕の量はかなり限定されており、作中におけるほとんどの会話の内容は観客が想像するしかないのだが、登場人物のキャラ設定さえ頭に入ってしまえば別に難しいことはない。反対に、ミッチのフランツに対する想いには、多分にシャーロッテへの対抗心が含まれているんだろうなあ、なんて想像しながら見るのもなかなか楽しいものであった。

ということで、ミッチの夫ジョセフ役で、トーキーになってからも活躍したアドルフ・マンジューが出ている。後年は、好人物を演じる機会が多かったような印象があるが、本作では、妻の浮気心につけこんでまんまと離婚に成功する、少々狡猾な人物を好演していました。