1950年作品
監督 ジョン&ロイ・ボールティング 出演 バリー・ジョーンズ、アンドレ・モレル
(あらすじ)
ある日、英国の首相官邸に一通の手紙が送られてくる。差出人は、国立科学研究所で核兵器の開発に携わっているウィリントン教授(バリー・ジョーンズ)であり、その手紙には“もし政府が核兵器の製造を中止しなければ、一週間後にロンドンの中心で核爆弾を爆発させる”と書かれていた。スコットランド・ヤードのフォランド(アンドレ・モレル)は、新型爆弾とともに姿を消した教授の行方を追うのだが….
核兵器の恐怖を題材にしたドキュメンタリー・タッチのサスペンス映画。
タイプライターほどの大きさの核爆弾の開発に成功した科学者が、自分の研究が大量殺人に使用されることに悩んだ末、その爆弾を使って核兵器の製造を中止させようとする訳であるが、脅された英国政府はこの要求を頑として受け入れず、何とロンドン市民の大規模な疎開計画を実行する、というなかなか興味深いストーリー。
比較的早い時期に核兵器の恐怖を取り上げた作品として評価されているらしいのだが、主人公のウィリントン教授はノイローゼ気味の半病人として描かれており、理想主義的なメッセージを有する反核映画というより、爆発までのカウントダウンによるサスペンスを強調した娯楽作品としての印象の方が強い。
したがって、核兵器の開発を是とする英国政府はむしろ正義の味方であり、ロンドン市民を巻き込んだ大規模な疎開計画にしろ、無人化したロンドン市内における犯人の捜査手法にしろ、そこで発揮される合理的で容赦のない手際の良さが光っている。特に、前者では、人間だけでなく、大英博物館やナショナルギャラリーの収蔵品もしっかり疎開の対象に入っており、その用意周到ぶりは見ていてどこか滑稽ですらあった。
これに対し、ウィリントン教授の犯行の方はとても計画的とはいい難く、自分で設定した一週間の猶予期間中の隠れ家さえ準備していない始末。また、仮に政府が核兵器の製造の中止を表明したとしても、それが真意なのか、あるいは彼に爆破を思い止まらせようとするためのデタラメなのか、判断することはほとんど不可能だったろう。
ということで、無人のロンドン市内の映像はなかなかインパクトがあるものの、ウィリントン教授の計画が成功する見込みは最初から極めて低く、爆発のタイムリミットが迫ってきてもサスペンスは一向に盛り上がらない。せめて、警察の捜査に協力するウィリントン教授の同僚レーンについて、“実は教授の共犯者かも?”という疑念を観客に抱かせるくらいの工夫は必要だったように思います。