セルピコ

1973年作品
監督 シドニー・ルメット 出演 アル・パチーノ、ジョン・ランドルフ
(あらすじ)
激しい雨の降る深夜、ニューヨーク市警の警察官フランク・セルピコアル・パチーノ)が顔面に重傷を負って病院に運び込まれてくる。彼は、子供の頃から警察官になることに憧れてきた正義感に燃える青年だったが、実際の警察組織の内部では末端に至るまで汚職が蔓延しており、ただ一人賄賂を受け取ることを拒否し続けるセルピコは、次第に組織の中で孤立するようになっていた….


シドニー・ルメットが初めてアル・パチーノと組んだ作品。

ハリウッド映画にも警察内部の腐敗を扱った作品というのは決して珍しくはないのだが、本作は実在の人物であるフランク・セルピコの体験をベースにしているということで、内容はかなり地味。派手なアクション・シーンは出てこないし、ラストには意外などんでん返しも用意されていない。

基本的に、セルピコ自身が実際に目や耳にした情報のみに限定したストーリー作りがなされているため、彼を排除しようとする警察内部の“陰謀”なんかは全く描かれていないし、彼が麻薬事件の捜査現場で顔面に重症を負った件に関しても、それが警察側の仕組んだ罠だと明確には指摘していない。

さらにいえば、勇気を持って警察内部の腐敗を告発した彼が正義のヒーローとして賞賛を浴びるシーンも登場せず、恋人を失い、警察からも引退した彼が、一匹の犬だけを連れて逃げるようにヨーロッパへ去っていくシーンで映画は終わってしまう。まあ、何ともスッキリしないラストではあるが、残念ながら、これが内部告発を行った人物に対する世間の正直な反応なんだろうなあ。

勿論、それはセルピコが悪い訳でなく、彼の行為が正しいことは100%間違いないのだが、それにもかかわらず、それを素直に賞賛することが出来ないというのは我々の側の問題であり、おそらくほとんどの人間が、何らかの(内部告発されたくない)“後ろめたさ”を抱えているからなんだろう。

ということで、米国に比べ、我が国では警察組織に対する信任が厚いようであり、安心安全のために警察官を増員するような傾向にあるが、権力が腐敗するのは洋の東西を問わない永遠の真理であり、“Who watches the watchmen?”という問いかけを常に忘れてはいけないと思います。