黒猫・白猫

1998年作品
監督 エミール・クストリッツァ 出演 バイラム・セヴェルジャン、スルジャン・トドロヴィッチ
(あらすじ)
ドナウ川のほとりに息子のザーレと暮らすロマ族のマトゥコ(バイラム・セヴェルジャン)は、一攫千金を夢見るグータラ詐欺師。石油列車強奪の計画を思いついた彼は、父親の旧友である“ゴッドファーザー”グルガからの資金援助を受け、新興ヤクザのダダン(スルジャン・トドロヴィッチ)を誘って計画の実行に踏み切るが、まんまとダダンに騙されてしまい、多額の借金だけが彼の手元に残る....


一部で高い評価を得ているエミール・クストリッツァ監督のコメディ作品。

自分がダダンに騙されたことさえ知らないマトゥコは、彼への借金をチャラにしてもらうため、息子のザーレをダダンの行き遅れの妹アフロディタと結婚させることに合意。しかし、ザーレには意中の恋人イダがおり、一方のアフロディタにも夢で見た理想の伴侶がいるということで、そんな二人の結婚式にはとんでもない結末が待っていた。

ロマの人々関しては、“スリや泥棒の温床”といった偏見に満ちたステレオタイプで差別されてきた気の毒な方たち、というイメージを抱いていたのだが、本作の登場人物のほとんどは正にそういった犯罪者たちであり、若いザーレやイダにしても、おそらく盗むという行為に対してさほど抵抗は感じていないだろう。

しかし、彼等は自分たちのそんな生き方にまったく悪びれることもなく、自らの欲望に忠実なまま暮らしている訳であり、その生き生きとした表情の前では俺の陳腐な同情心なんて所詮どうでも良いことと素直に納得せざるを得ない。莫大な富を積み込んだ外国船が毎日のように彼等の目の前の通り過ぎる様を見れば、まあ、どちらが富の偏在の犠牲者なのかは一目瞭然だし・・・

少々お下劣なシーンが目に付くし、障碍者の方を揶揄するような表現が出てくるところなんかも、正直、俺の脆弱なモラル意識にはちょっと負担が大きすぎたようなのだが、まあ、自分が西欧人ではないことを忘れないためにも、年に一度くらいはこういった作品を見ることも悪くないと思う。

ということで、ドタバタ調の内容に比べて映像は計算されたように美しく、そのギャップがとても印象的。機会があれば、次はクストリッツァ監督の非コメディ作品を見てみたいと思います。