精霊たちの家

チリ出身の小説家イザベル・アジェンデが1982年に出版した彼女のデビュー作。

祖母、母親、娘の3代にわたる物語が激動するチリの政治体制を背景に相当のボリュームで描かれているのだが、語り口はむしろ平板であり、日常的な出来事も非日常的な出来事もほとんど同じような調子で淡々と綴られていく。

特に、祖母のクラーラは、手を使わずに三脚テーブルを動かしたり、予知能力までもっている超能力者であり、夫のエステバーンが彼女のために建てた角の屋敷には精霊が出没するらしいのだが、そのような不思議な出来事に関しても、何の説明もせずに単なる“事実”として語られているため、いつのまにかまるで創世記でも読んでいるかのような気分にさせられてしまった。

その他の登場人物やエピソードも極めて多彩であり、読み応え十分なのだが、三人のヒロインの前に暴君として立ち塞がる(?)エステバーンが、最後まで大した罰を受けることもなく大往生を遂げるというラストがほとんど唯一の不満であり、何だかんだ言っても、やっぱり女性というのはああいう男に惹かれるものなのかねえ。

ということで、ラテンアメリカ文学を真面目に読んだのは本書が初めてだった訳であるが、翻訳が上手いせいか、思っていたよりもずっと読みやすかった。次は、やっぱりG. ガルシア=マルケスの「百年の孤独」を読まなければいけないのでしょう。