緋文字

ナサニエル・ホーソーンによるアメリカ文学の古典。

同じ古典でも、メルヴィルの「白鯨」はそのテーマやあらすじが広く知られているのに対し、本書の場合、確か学校の教科書にも題名だけで具体的な情報があまり記載されていなかったような気がする。そんなところにも興味を持って読んでみたのだが、なーるほど、人妻の不倫を題材にした作品だったんだね。

しかし、一口に不倫といっても、舞台となるのが17世紀ニューイングランドの厳格なピューリタン社会であり、しかもその不倫の相手が評判の高い牧師様ということで、事態はかなり深刻。不倫相手の名前を決して明かそうとしない人妻ヘスターは、見せしめのため、姦淫を意味する緋文字の“A”を胸の上に付けさせられたまま、不義の子であるパールと二人きりで孤独な生活を送ることになる。

物語は、ここに復讐心に燃えるヘスターの前夫が加わり、恐怖の三角関係が展開するのだが、“愛憎”の“愛”の部分の描写が淡白であるため、あまりドロドロにはなっていかない。結局、犯した罪を隠し続けることに疲れた牧師の魂の救済みたいな形で決着が付くのだが、彼とヘスターとの間の純愛が“罪”であるという認識は最後まで変わることはなく、恋愛至上主義的な現代感覚からすると、かなり異色な印象を受ける。

ということで、天使と魔女の両面を兼ね備えたようなパールのキャラクター設定がとても魅力的なのだが、おそらく彼女はヘスターの抑圧された内心を具現化した存在であり、ヘスター自身も牧師が彼女との愛を公にしてくれることを心の底で待ち望んでいたのだと思います。