古寺巡礼

和辻哲郎の名著であり、彼が20代の終わりに友人たちと奈良を旅行したときの感想をまとめたもの。

実は、今年の夏は家族で奈良に行く予定にしており、今読まなかったらおそらく一生読む機会は無いだろうということで本書を手に取った次第。古典的名著とはいえ、内容は奈良で彼が目にした社寺、仏像、仏画等の印象を綴ったものである故、決して難解なものではなく、幸い、我が家が奈良旅行に出発する前に読み終えることが出来た。

もちろん、(20代後半とはいえ)著者の古美術に関する知識は俺なんかよりずっと豊富なのだろうが、決してその道の専門家という訳でもなく、正直、参考書として読むのには少々物足りなくもない。しかし、若かりし頃の著者が、いろいろと想像の翼をはばたかせながら自分の受けた印象を率直に述べていく様子は実に清々しく、読んでいてとても好感が持てる。

特に、本書が出版されたのが1919年、すなわち我が国が第一次世界大戦戦勝国としてパリ講和会議に参加した年ということで、本書の記述から、“一流国”の仲間入りを果たしたばかりの日本の文化に対する、著者の誇りと不安の入り混じったような感情が読み取れるのが非常に興味深く、また、一部で“風土”的な記述を見ることも出来る。

ということで、興福寺八部衆十大弟子に対する評価が低かったり、運慶等による鎌倉期の仏像に対する言及が無かったりするのも、おそらくこの辺りの事情と関係があるのだろう。まあ、そんなことを考えながら、明後日からの奈良旅行を楽しんできたいと思います。