聖書の起源

山形孝夫という宗教人類学者の人が書いた聖書の本。

新約聖書のエピソードの多くが、実は旧約聖書からの換骨奪胎であったことはジョン・ドミニク・クロッサンの本で読んだところであるが、本書では、その源泉をさらに古代オリエントギリシアの神話に求めようとする。

とはいっても、具体的に取り上げられているのはもっぱらイエスの治癒神としてのエピソードに関する部分なのだが、神話(宗教)の勢力拡張の原動力を医療と関連付けて考察する視点は(俺にとって)新鮮であり、それだけでもなかなか興味深い。深遠な思想よりも治療という現世の利益のほうが重視されるというのは、個人的には少々残念ではあるが、説得力はある。

また、ユダヤ教における一神教の誕生の原因を、古代ユダヤ人の“寄留者”としての厳しい生活から説明しようとするあたりも、さすが宗教人類学っていう感じ。思い入れは強いものの、学者らしく、あまり想像の翼を羽ばたかせることなく、全体的に節度ある内容となっており、そんなところにも好感が持てた。

ということで、これだけ医学の発達した現在においても、“難病”が多くの新興宗教関係者の方々の飯の種になっていることは、まず間違いの無いところであり、まあ、あまり昔の人のことを笑う訳にもいきません。