ハリーとトント

1974年作品
監督 ポール・マザースキー 出演 アート・カーニー、エレン・バースティン
(あらすじ)
妻に先立たれたハリー(アート・カーニー)は、愛猫のトントと二人(?)住まい。長年住み慣れたニューヨークのアパートが取り壊されることになり、ひとまず近所に住む長男バートの家に引き取られることになるが、突然の生活の変化にハリーもバートの家族も気まずさを禁じ得ない。いたたまれなくなったハリーは、トントを連れてシカゴに住む長女シャーリー(エレン・バースティン)の元を訪ねることになったが….


第47回アカデミー賞において、アート・カーニーが主演男優賞を獲得した作品。

結局、シャーリーとも一緒に生活することはできず、次は次男エディの住むロサンゼルスを目指すことになるのだが、猫と一緒ということで飛行機や長距離バスといった公共交通機関を利用することが出来ないハリーは、子供達の家を訪れるため、中古車を買ったり、ヒッチハイクをしたりしてアメリカ各地を旅することになる。

本作は、そんなハリーとトントが旅の途中で出会う様々な人々との交流を描いたロード・ムービーなのだが、「ストレイト・ストーリー(1999年)」や「世界最速のインディアン(2005年)」といった作品が公開される20数年前の作品ということで、老人を主人公にしたロード・ムービーとしてはハシリといっても良い作品なのかもしれない。

老人施設で生活している初恋の人を訪ねたり、いきなり「慕情(1955年)」のテーマ曲が高々と流れたりといった具合に印象的なエピソードも少なくなく、最後まで楽しく鑑賞することが出来たが、公開当時、大活躍中であったエレン・バースティンの出番が極端に少なかったり、後半のエピソードが小粒なものばかりになってしまっているあたりが少々残念ではあった。

主演のアート・カーニーは公開当時56歳ということで、72歳という年齢設定のハリーを演じるには若すぎるという批判もあったと記憶しているが、本作における彼の自然な演技を見ていると、無理をして老け役を演じているという違和感は全く無く、これであればアカデミー賞の主演男優賞も納得だと思う。

ということで、似たようなテーマを持つ「東京物語(1953年)」に笠智衆が主演したのはまだ40歳台のこと。日米の老け役対決としては笠智衆の勝利といったところであるが、名優と言われる人の手にかかっては20歳くらいのギャップは何でもないんですねえ。