灰色の男

1943年作品
監督 レスリー・アーリス 出演 マーガレット・ロックウッド、フィリス・カルヴァート
(あらすじ)
19世紀のイングランド。寄宿制の女学校にヘスター・ショウ(マーガレット・ロックウッド)という美しい娘が中途入学してくるが、どこか影のある彼女は他の生徒たちと打ち解けようとしない。優しい性格で学校の人気者でもあるクラリッサ・リッチモンド(フィリス・カルヴァート)は、そんな彼女を見かねて半ば強引に“親友”になろうとするが、数日後、ヘスターはある海軍少尉と駆け落ちしてしまう….


マーガレット・ロックウッド主演によるイギリスの悪女物。

女学校を辞めたクラリッサは、“灰色の男”ことローハン公爵(ジェームズ・メイソン)と愛のないみじめな結婚生活を送ることになるのだが、そんなところに現れるのが、駆け落ちした夫と死別し、今は旅芸人にまで身を落としていた悪女ヘスター。人の良いクラリッサが好青年のピーター(スチュワート・グレンジャー)に心惹かれていることを利用して、公爵夫人の後釜を狙うっていうストーリー。

不幸な結婚の後、ようやく真実の愛を見つけた人妻が様々な困難に遭遇するという展開は、まあ、メロドラマにおける一つの定番みたいなものであり、主要登場人物が善人(=クラリッサ&ピーター)と悪人(ヘスター&ローハン公爵)とにはっきり区別できるストーリーもいたって単純なのだが、実際に見てみるとこれがなかなか面白い。

主演のマーガレット・ロックウッドは、同じ悪女でも陽性のバーバラ・スタンウィックに比べるとかなり陰湿な印象なのだが、変態(?)という点ではジェームズ・メイソン扮するローハン公爵の方が一枚上手。ラストで公爵の怒りを買ってしまったヘスターは、彼のムチ打ちの餌食になってしまうのだが、その後に待っている彼女の悲惨な末路は、想像するだにおぞましいものがある。

本作が出世作になるらしいジェームズ・メイソンは、公開当時34歳。クレジット順は3番目で出番もあまり多くはないのだが、本作における彼の役どころは、大スターとなってからもどこか性格俳優的な雰囲気を残していた彼の演技のルーツを見ているようで、とても興味深かった。

ということで、最初と最後にクラリッサとピーターの末裔(=孫くらい?)が出会うというエピソードを挿入し、悲恋に終わった二人の代わりに新しいカップルが誕生しそうな予感を残して終わるという脚本も心憎いばかりであり、久しぶりに面白いメロドラマを見させて頂いたという気持ちになりました。