王国の鍵

1944年作品
監督 ジョン・M.スタール 出演 グレゴリー・ペック、トーマス・ミッチェル
(あらすじ)
スコットランドの貧しい漁師の子として生まれたフランシス(グレゴリー・ペック)は、両親の不慮の死によって叔母のポリーに引き取られて育てられる。彼女の希望もあってカトリックの神父になるものの、無神論者の友人ウイリー(トーマス・ミッチェル)とも気軽に付き合ってしまうその“ユニークさ”が災いし、任地での評価は散々。そんなとき、大学時代の恩師でもある司教の薦めにより、彼は宣教師として中国に赴くことに….


グレゴリー・ペックの初主演作品。

映画を見ただけでは良く分からないのだが、フランシスが赴任してきたのは辛亥革命によって清が滅亡した頃の中国らしい。本作の後半では、彼の教会が政府軍と革命軍(=蒋介石一派?)との武力衝突に巻き込まれるというエピソードなんかも登場し、このような困難な状況下において、異国の人々の理解を得ながら一歩ずつ着実にキリスト教の布教に努める彼の姿が、品の良いユーモアを交えながら描かれている。

脚本にジョセフ・L.マンキーウィッツも参加している本作のストーリーは、フランシスの従妹であり恋人でもあったノーラの裏切りや死の経緯が最後まで明らかにされなかったり、彼と尼僧マリアとの間の確執の理由が良く理解できなかったりと、所々で説明不足気味な点が目に付くが、137分という決して短くはない上映時間の最後まで観客の興味を繋ぎ留めておくだけの力は有していると思う。

また、フランシスの同級生で、最後は司教にまで出世するアンガス(ヴィンセント・プライス)の俗物ぶりを描くことによってカトリック権威主義的な一面をやんわりと批判しているだけでなく、この時期のハリウッド映画としては珍しく(?)、中国の方々に対してもきちんと敬意が払われており、このへんのリベラルな感覚は見ていてとても好感が持てる。

本作が初主演となるグレゴリー・ペックは公開当時28歳。ほとんど出ずっぱりの状態で主人公が大学生から白髪の老人になるまでを演じている訳であるが、これがなかなか堂々たる演技ぶりであり、本当にこういうキャラを演じているときの彼は素晴らしいの一言。ちなみに、フランシスの少年時代はあの名子役のロディ・マクドウォールが演じている。

ということで、原作者のアーチボルド・J.クローニンはスコットランド人であり、「王国の鍵」(=復活したキリストがペテロに与えた。)という題名もいかにもカトリックらしいのだが、それを受けるに相応しいのは地位の低い一介の老神父という本作の結論はとてもアメリカ的であり、そんなところがなかなか興味深い作品でした。