西部の王者

1944年作品
監督 ウィリアム・A.ウェルマン 出演 ジョエル・マクリー、モーリーン・オハラ
(あらすじ)
東部からやってきた上院議員とその娘ルイザ(モーリーン・オハラ)を乗せた駅場車がシャイアン族に襲撃されるが、たまたま通り合せた“バッファロー・ビル”コーデイ(ジョエル・マクリー)の活躍によって無事救助される。議員たちはインディアンの居住区域内に鉄道路線の延長を断行しようとするが、イエロー・ハンドの呼びかけによって蜂起したシャイアン族の反撃にあい、議員自身が人質として囚われてしまう….


ウィリアム・A.ウェルマン監督による“バッファロー・ビル”コーデイの伝記映画。

バッファロー・ビルについては、「アニーよ銃をとれ(1950年)」等の作品をとおし、“ワイルド・ウェスト・ショーを立ち上げて、米国内やヨーロッパ中を巡業して回った名物興行主”というイメージを持っていたが、本作ではむしろ彼が興行主として成功する以前の時期の方に焦点が当てられている。

本作でのバッファロー・ビルは、インディアン達を含む「西部」という世界の住人であり、東部の人々の“良いインディアンは死んだインディアン”という暴言に腹を立て、彼等を“大自然素手だけで立ち向かう勇敢な人々”と擁護するとともに、西部に対する正しい理解の普及促進のためにワイルド・ウェスト・ショーを立ち上げる、という展開。まあ、これのどこまでが史実なのかは知らないけれど・・・

西部劇でインディアンを“人間”として描いている例としては、デルマー・デイヴィスの「折れた矢(1950年)」なんかが初期の代表作とされているようであるが、その数年前に本作のような作品を撮っているあたりにウェルマン監督のリベラルな感性が窺われる。しかも、同時にシャイアン族と騎兵隊との激突シーンを凡百の西部劇が及びもつかないような大迫力で描いており、このへんのバランス感覚もお見事。

主演のジョエル・マクリーは、スタージェスの都会派コメディ作品なんかではいま一つパッとせず、本作をはじめとする西部劇への転身が正解だったことについてはその後の彼の経歴が示すとおりだろう。相手役のモーリーン・オハラはとても奇麗だけど、残念ながら本作ではあまり見せ場はなかった。

ということで、作中、バッファロー・ビルに想いを寄せるシャイアン族の娘(リンダ・ダーネル)がモーリーン・オハラ扮するルイザから“インディアン”と呼ばれたことに腹を立てるというシーンがあって、まあ、言われてみればそのとおりなんだろうが、ちょっと意表を衝かれた気がしました。