変態家族 兄貴の嫁さん

1984年作品
監督 周防正行 出演 風かおる、大杉漣
(あらすじ)
百合子(風かおる)が嫁いできた間宮家には、夫である長男の幸一の他、義父の周吉(大杉漣)、長女の秋子そして次男の和夫が暮らしていた。周吉は、死別した妻に似ているというスナック「ちゃばん」のママに秘かな思いを寄せていたが、それを確かめるために店を訪ねた幸一も彼女に一目惚れしてしまう….


周防正行の監督デビュー作品。

評判どおり最初っから小津安二郎調であり、ニヤリとさせられるところは多々あるものの、(このDVDに収められている周防監督のインタビューを聞くまでもなく)決してパロディを目的として作られた作品ではなく、小津作品に特有の“不自然さ”を揶揄するようなシーンは一切出てこない。

幸一がスナックのママと駆け落ちしてしまったのに続き、秋子と和夫も相次いで家を出てしまうため、間宮家には百合子と周吉(=多くの小津作品で使用されている役名であり、特に、間宮周吉というのは「麦秋(1951年)」で菅井一郎が演じた役と同姓同名。)の二人だけが取り残されてしまう。

そして、“実家に戻ってもいいんだよ”という周吉のセリフに対する百合子の回答で、彼女が「晩春(1949年)」で原節子が演じた紀子であることが判明し、さらにラストの周吉の独り言によってこの作品のベースが「東京物語(1953年)」であったことが判るようになっており、このあたりの仕掛けの巧さは誠に心憎いばかり。

ただし、この作品が商業映画として成功しているかといわれると、首をひねらざるを得ないのも事実であり、正直、このラストに至るまでのストーリー自体はさして面白いものではない。せめて“百合子=紀子”ってことくらいは最初から明らかにしておいたほうが、小津作品のファンにはとっつきやすかったと思うんだけど、どうだろう。

ということで、ピンク映画の故、何度か出てくる濡れ場シーンまで小津調にしてしまえばもっと面白くなったような気もするが、それだとパロディになっちゃうんでやっぱり無理だったんだろう。それと、当時32歳の大杉漣が、フケ役のスペシャリストである笠智衆に対抗して60歳過ぎの老父役に挑戦しているのが愉快でした。まあ、あんまり似てなかったけどね。<だからパロディじゃないんだってば!