風に舞いあがるビニールシート

先に発表された第135回直木賞受賞作。
直木賞受賞作だから、という理由で本を購入したのは、今までの人生の中でおそらく今回が初めて。森絵都という作者の本を読んだのも、これまた今回が初めて。

表題作の「ビニールシート」というのは、いわゆる難民のことであり、戦争や自然災害などによって今まさに生命の危機に瀕している人々を指している。
この話を読みながら、数年前に起きたイラク日本人人質事件のことを考えた。(この本の別の短編「犬の散歩」でもこの事件の話題がチラッと出ているので、作者も十分意識してのことだろう。)

あの事件のとき、例の自己責任論というやつを背景に、人質になった連中は“被害者”としては前代未聞のバッシングを受けた。正直、俺も「何もイラクくんだりまで出かけなくても」と思ったが、心の一部では人質になった連中への後ろめたさを感じていたのは事実である。俺には仕事もあるし、家族もあるし、税金も払っている、それで不足なら募金に協力したっていいとさえ思っているが、それでもこの後ろめたさは今も無くならない。

表題作のラストで、主人公は、死んだ元夫に代わり、ビニールシートを押さえつけにアフガンへ行くことを決心するのだが、残念ながら(?)、俺にはそんな真似はできっこない。きっとこの後ろめたさと一生付き合っていくんだろうとやや鬱になってしまった。

ということで、この本の新聞広告に書かれていた「あたたかくて強くて、生きる力を与えてくれる」というコピーはまったくのインチキです。まぁ、この話をこんなふうにしか読めない俺のほうが間違っている可能性が大きいのだが。(作者に、アフガンへ行くことと捨て犬ボランティアをすることとの関係を聞いてみたいです。)